- [トップページへのリンク](https://www.cs.k.tsukuba-tech.ac.jp/labo/sekita/takeshita/training_alone/) - ファイルへのリンク - [オリジナルwordファイル](220408_テキスト.docx) - [このページのmarkdownファイル](j上司と当事者との認識ギャップ230321.md) # 0. 上司と当事者との認識ギャップ - 当事者の景色と上司の景色 - 働くことで報酬を受けながら、社会に役立つことは、肯定的自己イメージの源泉です。 事務系所職種での採用は、これまで視覚障害者の活躍が期待されながら、なかなか進んでいません。 そこで、実際に働いている当事者からデータを収集、活躍するために必要なスキルがどう発達していくのか、分析しました。 ## 0.1 期待される「事務系職種」 皆さん良くご存じの問題が、「職域の拡大」です。 就職している視覚障害者の約3割が三療(按摩・マッサージ・鍼灸)に従事しています。 キャリア選択の範囲が、他障害と比べて限られているのです。 既に他の障害では「企業ニーズに合った教育・訓練開発」がなされており、 職域拡大(有利な職種を開発して訓練する)という考え方自体が社会変化や技術革新に適応できないのではないか、 という指摘もあります。 近年、パソコンと周辺機器の発達により、昔は困難であると考えられていた「事務系職種」での視覚障害者採用が期待されています。 しかし実際には、企業の現場では「視覚障害者にどのような職務を割り当てられるかがわからない」ため、採用や活用が進んでいないという指摘がされています。 そこで、実際はどうなのか、当事者は、どんなスキルを発達させていき、どんな仕事ができるようになるのか、データを収集して分析してみました。 調査協力者は、勤務経験2年以上の視覚障害をもつ当事者7名と上司10名(8社)です。 上司のうち3名は何らかの障害がありますので、分析結果は単純な「視覚障害者対晴眼者」という構図にはなりません。 分析には、言葉のデータを科学的に分析できる**M-GTA**という手法を使いました。 複数の人の語りで裏付けられた、その現場に特有の現象を見つけたら、「**概念**」としてラベルをつけます。 同じ特徴を持つ概念が幾つか集まると**カテゴリー**になり、抽象度が一段上がります。 こうすることで、カテゴリー間関係の**法則性**を説明する理論が生成できます。 一番抽象度の高いレベルでカテゴリー間関係を説明した図が、図0.1 です。 ## 0.2 視覚障害当事者と上司のスキル発達 図0.1 では、**四角枠**は**相手に観察可能な**概念カテゴリーを、**楕円枠**は**相手に観察できない**概念カテゴリーを表し、**矢印**は影響を及ぼすという**関係性**を表します(ここでの点線は、細線であることを意味します)。 ```mermaid flowchart BT subgraph 当事者側 自覚された苦手スキル([自覚された苦手スキル]) .-> 就労スキルの発達 & 就労観の形成([就労観の形成]) end subgraph 上司側 観察された不足スキル([観察された不足スキル]) .-> 支援スキルの発達 & 雇用観の形成([雇用観の形成]) end 就労スキルの発達 .-> 雇用観の形成 支援スキルの発達 .-> 就労観の形成 ``` **図0.1 当事者と上司のスキル発達**([markdownテキストへのリンク](Fig0_1当事者と上司のスキル発達.md)) 図0.1 は、markdownファイルの中にmermaid記法で書かれています。 > markdownテキストにおける**mermaid記法の概説**: > subgraph から end までが1つのグループを表し、四角の枠で囲まれており、その名前が subgraphの右側に記述されています。この図では、「当事者側」と「上司側」のグループがあります。グループ名は、枠の上部に明示され、さらに、それを使ってグループを参照することができます。 > グループ内に含まれる概念間の影響は、矢印で示されています。 > .-> は点線(細線の意味)による矢印で、その向きに影響が及ぶことを表します。 >概念の内、 ([ と ]) で囲まれているものが楕円枠の概念を表し、観察できない概念であることを意味します。 > それ以外は四角い枠で囲まれた概念を表し、観察可能な概念であることを意味します。 > 楕円枠の前には参照のためのラベルが記述されますが、わかりやすいように記述されている概念と同じにしてあります。 > 楕円枠のラベルは、図中には明示されません。 図0.1 では、左側に上司側が、右側に当事者側が書かれています。 そして、左側と右側の概念カテゴリー名は、規則的に対応しているように見えます。 しかしこれは、分析者である私が勝手にそう決めたのではなく、 インタビューの語りから、複数の人に共通する概念を生成し、複数の概念でカテゴリーを生成することで関係性を検証した結果です。 上司は、当事者の就労スキルの発達は観察できますが、当事者が自覚した苦手スキルや、当事者が形成した就労観(視覚障害者として働くとはどういうことかという考え方)は、観察できないのでわかりません。 当事者は、上司の支援スキルの発達は観察できますが、上司が当事者に対して不足していると観察したスキルや、上司が形成した雇用観(視覚障害者を雇用するとはどういうことかという見方)はわかりません。 上司は、観察した当事者の就労スキル発達と、過去に観察した不足スキルに基づいて、雇用観を形成します。 当事者は、自覚した苦手スキルと、観察した上司の支援スキル(配慮)に基づいて、就労観を形成します。 この図からわかることは、**上司の雇用観と当事者の就労観、上司が観察した不足スキルと当事者が自覚する苦手スキルに、もし不一致が発生すると、お互いのストレスをもたらすこと**です。 今回のポイントの1つ目は、職場における**上司と部下は、なんでも話せるわけではない**、ということです。 思っていることをそのままいうと、人事評価に影響するのではないかとか、当事者のやる気を下げてしまうのではないか、と思うからです。 2つ目は、**お互い観察したりされたりする関係だ**ということです。 仕事なので、共通の目的達成のために、起きている時間の多くを一緒に過ごします。 結果、意図せずに、自分の行動で、相手の考え方に影響を与えているのです。 M-GTAによる分析結果の説明は、まず全体の構造を読者に示して現象のメカニズムを大まかに把握してもらってから、カテゴリ―ごとに具体的な例を説明していきます。 このため説明力が高まり、読者は現場で応用できるようになるのです。 次回は、当事者の自覚する苦手と、上司が観察している不足がどうズレているか、みていきます。 ## 0.3 謝辞 今回から次回以降数回は、竹下 浩(2020)「精神・発達・視覚障害者の就労スキルをどう開発するか:就労移行支援施設(精神・発達)および職場(視覚)での支援を探る」遠見書房(第5章)の一部を平易に解説したものです。 研究はJSPS科研費JP19K02471の助成を頂いています。 (竹下 浩 2022.4.8)