百相鍵盤『き』

本ソフトは,情報処理学科の客員研究員であった越川和忠氏が作成したものです.以下の解説は,越川氏によるものです.(2009.6.16更新)
スクリーンショット
これは、パソコンの鍵盤で実践できる文字盤入力方式として、私が自分で具体化して、長年使っているものです。
もし、一般に行われている日本語入力のやり方に、あるいは、いろいろな字種を入力する際に採られている操作の様式に、何かもどかしいものを感じておいでであれば、是非、参考にして下さい。

概要

文字盤方式というのは、文字の一覧表を見て、目的の字を指す操作で入力して行く方式です。

百相鍵盤は、パソコンの鍵盤をその一覧表にして、アルファベット(半角字)に限らず、漢字などの一般文字(全角字)も、それぞれの文字鍵を打つ操作で入力できるようにする独自の仕組みです。『き』は、それを入力ソフトとして具体化したものです。

即ち、標準的な日本語鍵盤(106鍵盤)には、文字鍵が、スペースも含めて、49あり、シフトも使うと98の区別ができます。そこで、“98の区別ができる親鍵盤の各文字鍵で、98種類の子鍵盤を仕分ける”という意味合いにして、まず、親鍵盤で、目的字のある子鍵盤を指す文字鍵を打ち、出た子鍵盤で該当文字鍵を打つ、という2段階の打鍵で、割り当ててある文字を入れます。入れ替わる鍵盤の配列は、キートップの代りに、画面に出る鍵盤図で知ることができます。その各鍵にはそれぞれの内容の判る文字が見出しとして表示されます。これによって、通常の鍵盤を文字鍵が約1万ある階層的文字盤として使うことができます。1万の文字鍵があれば、日常の使用には十分ですが、さらに、98通りの親鍵盤を使い分けることもできるようにして、約百万まで可能にしてあります。子鍵盤の文字鍵には文字列を割り当てることもできます。半角字と全角字の切り替えは、使う文字に応じて使用者が「半角/全角鍵」を打つことで切り替えます。

従って、読みなどで候補のリストを出さなくても、配列が始めから見えているので、配列規則を決めて並べておけば、文字は互いの位置を教え合う存在で並ぶ状態になり、打つ鍵を知ることも、それを覚えて打つことも容易になります。
目的の鍵や文字あるいは語句の表記自体が分からない時は、字引で教わりながら打ち、次からは自分で打てるように導く「倣い入力」をはじめ、入力を助ける適切な機能も備えています。

このように、文字盤方式は、文字を定まった配列における位置に対応付けておくと、位置を知っていれば直ぐ打つことができ、知るのに手間取っても次からは直ぐ打てるという、入力に際しての拠り所が安定した文字入力の手段になります。さらに、音声による適切な入力支援の方法を考えることもできます。
JISの数千字はどれも2打鍵で入りますから、漢字などいろいろな字種を使う日本語の文書も妥当な時間と労力で入力して行くことができます。

私も昔はかな漢字変換で入力していましたが、グラフィクスの環境が整って来た92年に、これを具体化でき、以来、テキストは、この方式で入力しています。操作が明快で応用も広いので、フリーの入力ソフトにして、配布もしてきました。その後、自分の使用OSも変わり、現在は、Linux上のX および Windows XPで実践できるものを公開しています。

ただ、『き』は、方法の性質上、打鍵を、それで入る半角字ではなく、キーコードで判断するので、応用ソフトが、半角字からの変換だけを前提にして、入力ソフト一般には必要な処理を省いていたりすると、鍵盤図の表示が変わらない、全角字が入らない、など種々の不都合が起きます。
このように、半角字からの変換が一般的になっている現行OS下での入力ソフト化には難しいものがありますが、文字入力の問題に関心をお持ちであれば、文字盤方式そのものの良さを、今後の参考にしていただけると思います。

糸口

文字盤方式は、始めは、1字、1字、その鍵を知るのに手間取り、簡単な例文を打ってみるだけでも、かなりの時間を費やします。しかし、手間取るのは鍵を知らない字の時だけで、知っていれば直ぐ打てますから、手間取る内容も、知るコツをつかむために費やす密度の濃い学習になり、後に、数千、数万の文字でも楽に打ち分けられるようになる下地を作っているといえます。単に同じ字を何度も打っていれば自然に覚えるというだけのものではありません。

そのことが、閲覧でも理解できるように、『き』でのいろいろな入力操作をスライド形式で説明した「百相鍵盤『き』説明スライド」を作成してあります。それをご覧になれば、今までは憶測にとどまっていた文字盤方式の具体的な全体像が頭に入ると思いますので、普段かな漢字変換方式を使っていて、入力の操作に煩わしいものを感じた時に、自然に比較ができます。

今回、それをもう一歩進めて、“少し前のノートパソコン+軽量Linux+『き』”の閉じたシステムで、文字盤方式を自由に追究してみるという方法も採れるようにしました。

いずれにしても、文字盤方式は、文字が表記の単位としての図形であるという、文字本来の性質に素直に基づく方法なので、言語によらず、すべての文字を見通しのよい最小限の打鍵操作で入力できます。文字そのものをよく知ることが入力を容易にすることにもなるわけです。従って、文字入力の基本機能として、カーネルレベルでの実現、あるいは、個人用鍵盤化なども考えてよいと思います。

使用例(自分の場合)

私が現在インストールして使っている主な機種とOSは、次の通りです:

・Linux:TOSHIBA DynaBook SS S5/280PNLN Ubuntu 8.10 日本語 Remix
Fedora (7→8→)9
ネットには繋がず、かつて重宝したワープロ専用機のよさを少し前のパソコンと共に蘇らせた感じで、テキスト原稿作成専用機として活かしています。閉じたシステムなので、音声による入力支援方法の実験なども自由にでき、文字や語句の表記を覚えることを兼ねた入力練習にも役立てています。

・Windows:NEC LaVie RX LR900/E Windows XP Home Edition SP3

私の場合、限られた応用ソフトしか使っていませんので、その範囲では快適と思っています。

ダウンロード

以下のリンクからダウンロードできます。

ki-slides: 百相鍵盤『き』説明スライド

閲覧で『き』の全体像がつかめるように、『き』でのいろいろな入力操作をスライドで説明したものです。
約600枚のスライドを、次の4つの内容に分けて、それぞれをPDFファイルにしてあります。
(1) ki-slides-1 考え方と文字入力の基本操作(180枚)
(2) ki-slides-2 「倣い入力」(169枚)
(3) ki-slides-3 下見の機能と表示様式(136枚)
(4) ki-slides-4 『き』の鍵盤図(113枚)
いずれも、はじめに全体の内容をざっと見て様子をつかんでから、改めて順に見て行くとよいと思います。
スライドの鍵盤図は、漢字の鮮明な図にするため、画面に出る鍵盤図のビットマップコピーではなく、描画ソフト(OpenOffice.org Impress)で1枚1枚作成したものです。文字は無論『き』で入力しています。

ki-xim: X Window System用

PC/AT互換機Linux X環境の応用ソフトで使えるXIMにしたもので、JIS X 0208/0212/0213に絞った基本のファイルを収めてあります。文字コードは、UCS-4のUTF-8符号化(1~6バイト)です。現時点では、Ubuntu 8.10 日本語 Remixや、Fedora 9 GNOME 日本語環境の gedit などで、文字盤方式の快適さを知っていただけると思います。
応用ソフトによっては予期した動作をしない場合がありますが、その主な原因は『き』に必要な通知(XIMプロトコル)が来ないことにあります。例えば、シフトを放してもシフトを押した状態の鍵盤図が出続ける応用ソフトがあるのは、シフトが解放されても、それを知らせるXIMプロトコルが来ないためです。収めてあるファイルには、この詳しい説明もしてあります。オープンソースの環境であれば、このように原因を知ることができますが、それよりも、XIMより前の段階に据える基本の入力機構、あるいは、文字入力の基本機能として、カーネルレベルでの実現、あるいは、個人の道具としての専用鍵盤化を考えてみたいものです。

ki-unicode: Unicodeの配列ファイル集

日常の仕事には、JIS X 0208の文字が使えれば十分ですが、その他の文字が必要になった時に、それを探しやすいように、Unicode (UCS-2) の約6万字を、文字コードの順に約6千字ずつ11の組に分けて、それぞれを配字簿(文字の配列を定めたファイル)にしたファイル集です。実行時に随時取り替えて使うことができ、『き』はその記載に従って打鍵に該当する文字コードを送出します。但し、実際に入力されるかどうかは、受け取る側のOSさらには応用ソフトに依存します。

ki-audio: 音声による入力支援実験用ファイル集

文字盤方式は、文字を盤面上の位置に対応付けているので、音声による入力の支援も期待できる方式です。そこで、『き』には、打鍵を耳で確認する使い方もできるように、日本語の音声通知機能を組み込んであります。その機能を使うために必要なファイル集です。まだ試行錯誤の段階のものですが、『き』における音声による支援の感じは分かりますので、 打鍵入力における音声での支援の仕方を検討する際の参考に供するものです。音声の処理にはメモリも演算力も要するので、当面、音質は望まずに、音節要素の PCM データを単純に繋いで出力するだけのものです。その PCMデータも自作です。実際に音声による案内で使える状態にするには、配字簿などに適切な読上文を記入しておく必要がありますが、まだ一部のファイルに試みの読上文が記入してある程度です。第1水準文字の打鍵練習程度には利用できます。

ki-ime: Windows XP用

Windows XPで Unicodeが入力できるIMEにしたもので、これも、JIS X 0208/0212/0213に絞った基本のファイルを収めてあります。文字コードは Unicode(UTF-16のUTF-8符号化で 1~4バイト)を用いています。ki-xim に比べると、多くの応用ソフトで使えますが、コマンドプロンプトは、専用の処理が必要のようで、正しくは動きません。一個人の自作フリーソフトなので、商用OS下では情報不足もあり、プログラム化の上でも、使う上でも、不本意なところがありますが、文字盤方式そのものの良さは伝わると思います。なお、前2項の ki-unicode、ki-audio は、この ki-ime でも試せます。

謝辞

百相鍵盤はもともと自分で使うために作ったもので、フリーソフトとして公開もしていましたが、8年前、宮川正弘現名誉教授から、この応用性について客員研究員として考えてみる機会をいただき、世間からは忘れかけられている文字盤方式への再認識を促し得る参考例として整えることができました。
また、小林真准教授は筑波技術大学の公開ソフトの頁に加えて下さり、情報システム学科の皆さまにもお世話になりました。
ここに記して感謝の意を表します。

学術発表

  1. 越川,宮川:漢字の定打鍵直接入力方式について,筑波技術短期大学テクノレポート,10(2), 61-67(2003).
  2. 越川,宮川:文字盤入力方式の習得用機能と練習方法,筑波技術大学テクノレポート,13, 45-49(2006).
  3. 越川,宮川:文字盤入力方式を支援する音声通知機能,筑波技術大学テクノレポート,14, 137-143(2007).
  4. 越川,宮川:パソコンの鍵盤で具体化した文字盤入力方式,FIT2007,J-022, 2007.

越川和忠
kosikawa.watiu[at]jcom.home.ne.jp(本稿作成09-06-11木)
(2001年4月~2008年3月 筑波技術大学客員研究員)

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