ここでは、視覚障害当事者にとって最も多い就業先である、鍼灸マッサージ業、中でも近年期待が高まる「企業内ヘルスキーパー」を見てみましょう。
事務系職種研究の一環として収集された当事者ヘルスキーパー2名(弱視者)及び上司2名(晴眼者)のデータを分析しました。
図2.1 当事者ヘルスキーパーのスキル発達過程(上司観察)(markdownテキストへのリンク)
図2.1 は、上司が観察した当事者ヘルスキーパーのスキルの発達過程です。
この図の1つ目のポイントは、スキル別の発達可能性の違いです。
太矢印で示されているように、対人的なスキルと技術的なスキルは、当事者の努力や上司の支援で発達します。
しかし、認知的なスキルは未解決です。
2つ目は、職場レベルの発達も重要であることです。
対人的スキルが未発達な職場では、雰囲気が悪化します。
図2.2 当事者ヘルスキーパーのスキル発達過程(当事者)](markdownテキストへのリンク)
図2.2 は、当事者ヘルスキーパーが自覚したスキルです。
この図のの1つ目のポイントは、スキルはバラバラではなく、「多層的なスキル発達」で見られるように、お互いに影響しながら発達するということです。
例えば、「独自の見立て」(熟練ヘルスキーパーが独自に行う見立て《概念的スキル》)と「対人的感度」(利用者の気持ちへの感度《対人的スキル》)が、「技術の上達」(技術的スキルの発達)に影響します。
2つ目は、スキル発達に影響する要因です。
当事者ヘルスキーパーの「職業観」と「周囲との関係」が、「多層的なスキル発達」に影響するのです。
当事者ヘルスキーパーのスキル発達を一般企業事務職の当事者社員のものと比較すると、2つの違いがわかります。
1つ目は技術面です。
事務職に比べてヘルスキーパーは、3つのスキルがより密接に関連しながら発達しています。
また、ヘルスキーパーの上司は技術的スキルをほとんど指導できないこともわかります。
これらをお互いが理解することで、直接対決しないでスキルを開発することができるでしょう。
2つ目は動機づけ面です。
ヘルスキーパーは、制度的に管理職への昇格がなく仕事内容が長期的に不変なので、指名数競争や顔ぶれ固定化で、職場の雰囲気が悪化しやすい構造にあります。
組織による個別アセスメントとケアが必要でしょう。