7月オーストリア、8月イタリア、そして3往復目の9月はドイツです。 2024年9月8日から13日にかけてDagstuhl Seminar 24371 に参加させて頂きました。
Dagstuhl Seminarとは
検索すると出てきます が、Dagstuhl SeminarとはドイツのLeibniz-Zentrum für Informatik GmbH (LZH)が主催する招待制・宿泊型セミナーです。Organizerが応募した企画が審査されて実施されます。日本のNIIが実施しているShonan Meeging のモデルになっているセミナーになります。
とはいえ、恥ずかしながら生粋のComputer Science出身ではない私は昨年9月にinvitationメールが来るまでDagstuhlのことは「dblpのところ」程度の認識でセミナーのことは知りませんでした。実際、国内での認知度は低いのかもしれません。周囲に「Dagstuhlに行ってきた」と言っても通じるのは経験者くらいなようです。
しかしinvitation letterが届いてから、長らくご一緒させて頂いている新潟大の渡辺哲也さんが2023年6月にInclusive Data Visualization に参加していた、という話を聞いて、渡りに船、色々聞ける、…と思うと同時に少し笑ってしまいました。20年前のドイツ在外研究員の時も彼の米国滞在の後でしたし、そういうイベントはトレースする運命なのかもしれません。
Invitationの経緯
さて、その有り難いDagstuhlのinvitation、テーマは「Extended Reality Accessibility」です。実は、何故呼んで頂けたのか最初不思議だったのですが、OrganizerやParticipantsリストを見て納得しました。つくば市で2022年に開かれたVRST2022というバーチャルリアリティ系の国際会議に、私はAccessibility担当のOrganizers として参加していたのですが、そのメンバーが関係していたことで声をかけてもらえたようでした。
まずはタクシー手配から
Dagstuhlのページにも書いてあります が、会場となるSchloss Dagstuhl、あまり交通の便の良いところではありません。最寄り駅から20~30km離れているうえ、タクシーも事前予約しておかないと駅では捕まえられないというお話。しかもドイツ語しかダメだよと脅される文面が出ています。というわけで最初は乗り合わせる相手探しとなります。そのために専用アカウントでログインしてアクセスできるWikiが用意されていて、時期が近づくと自然と皆が予定を書き込んでシェアし始める、という形です。
私は少しWikiの書き込みが進んだところで、ひとつ前に書き込んでいたイタリア人とシェアすることにしてタクシー会社にメールして予約したのですが、同時期にDiscordも始まり、travel-plansチャンネルでやりとりが始まります。今回結構な人数(40名ちょっと)なので、すったもんだの末に14人が同じ時間にTurkismuhleに着くことになり、8人乗り×2台が手配された…はずでした。しかし着いてみると1台だけしか迎えに来ておらず、そのタクシーが2往復する羽目に。そこに着くまでの電車も途中で止まって乗り換えさせられたり、Deutsche Bahnらしい道中だったのですが、おかげでその場にいたメンバーと楽しく(?)過ごすことができました。さらに、実は最初にアクセスしたイタリアの方は同時期の違うセミナーだったというオチもついたのでした(何故彼女がWikiに書き込めたのかは謎です)。
Schloss Dagstuhl、その設備や環境
過去に参加した方々が色々レポートしていらっしゃるように、Dagstuhlはルクセンブルクの国境近く、閑静な森の中にあります。宿泊は「Schloss」と呼ばれるいわゆるお城の方と、渡り廊下で接続されたレセプションのある「新館」の両方にあります。
Schloss Dagstuhlに到着すると、まずは事前に聞いていた4桁のコードで解錠して、レセプションへ。専用アカウントと同じアカウントネームとパスワードをドアキーを、登録する機械(右写真)に入力します。NFCのブランクキーをかざすと、部屋番号に対応する鍵情報が書き込まれます。それ以降はカードキーで自分の部屋やエントランスを解錠することができるようになります。
私はSchloss側でしたが、新館の参加者からは羨ましがられたので、参加者的には「当たり」の方なのかもしれません(単なるflatteryかも)。でも多分、新館の方が設備は新しいと思います。ちなみに新館側には広い会議室、図書館、地下にはサウナや卓球台、サッカーゲームなどがあり、Schloss側には小さ目の会議室、music roomと呼ばれるピアノやギターの備えられている部屋、食堂、そして酒盛り部屋?などがあります。music roomを抜けると細い階段を登る特別な宿泊部屋もあったりしますし、教会が併設されていたりもします。下の写真は左がschloss内のmusic room、右が新館のラウンジです。雰囲気の違いが伝わりますでしょうか。
シングルの宿泊部屋の設備としては、90cm幅くらいのベッド、机、クローゼット、シャワーとトイレと洗面台。テレビはありません。普段からほとんどテレビは見ませんが出先のホテルではモニター替わりによく使うので、今回「テレビ(モニタ)はないだろうな」と思ってサブモニタを持ってきたのは正解でした。
通信環境はあまり良くはない、とぼやく参加者も多かったのですが、2桁~3桁程度のスピードは出てました。
食事環境
朝食は7時半から、普通の欧州ビュッフェです。日を追うごとに夜が長くなるため(^-^)7時半に来る参加者は減っていきます…。そしてランチは12時、ディナーは18時、間の15時くらいにはケーキタイム、と食事については至れり尽くせりです。また、新館・Schlossどちらにもラウンジ的な場所がありコーヒーマシンが設置されており自由に飲むことができます。
よくDagstuhlセミナーの報告記事を読むと「テーブルにネームタグが置かれてシャッフルされてコミュニケーションを促進する」と書かれていますが、これはどうもそんなに計算されてシャッフルされているわけではなく、キッチンスタッフが適当に(…と言うと失礼ですが)並べているだけのような気がしました。というのも、私は海産物アレルギーがあるので一応Webのリクエストシートに書いておいたのですが、その結果ほぼほぼ毎回同じテーブルにネームタグが置かれて、ベジタリアンで登録しているメンバーと顔を合わせる回数が非常に多かったのです。彼らも「いつもこのテーブルだなぁ」と呟いていました。確証はありませんが、キッチンスタッフが分かりやすいように配慮の必要(そうな)参加者をまとめておくような印象を受けました。
また、ワインやビール、ジュースや水といった「ボトルに入ったもの」は自己申告制で専用の用紙に消費した数を記して行き、チェックアウト時に清算する仕組みです。毎晩毎晩、結構な(お酒の)ボトルが消費されていきます…
参加者の出身
Participantsリストに国名がツーレターで書いてあるのですが、例えばDEだからドイツ人、NZだからニュージーランド人、…とは限りません。当たり前なのですが、あくまで「現在の所属」がそうなだけです。実際に話してみると、生まれや育った国・学位を取った国・今働いている国、がバラバラなメンバーがちらほらいらっしゃいました。色々なお国事情を聞けて面白かったのですが、「ニュージーランドは公式に結婚しなくても子供を産んで育てるのに苦労しない」という話が印象に残っています。
Seminarの内容について
肝心の内容について書いていませんでした…。スケジュールはセミナーページに載っていますが、基本的にいくつかのプレゼンテーションとディスカッションで構成されています。プレゼンテーションはメンバー内の当事者(視覚障害者、車椅子利用者)や非営利組織のEnvisioning Accessのスタッフなどが担当しました。Envisioning Accessは肢体不自由者支援をしているのですが、そのルーツが「介助猿」の飼育や手配、管理等にあるというのがなかなか日本では考えられず興味深かったです。(私が知らなかっただけかもしれません)
議論についてはMiroを利用しつつ、用意された様々なテーマに従ってWorld Cafe形式で進められました。とはいえ、最初のグルーピングだけシールカラーによってランダムに行われたものの、その後は新たなテーマ設定が話し合われて、Miroの投票機能を使って希望するテーマの議論に加わるという形になっていきました。
最初に用意されていたテーマは「Chances of XR for people with accessibility」「Application Areas for People with impairments」「Accessibility for Social interactions」など、20種類に亘ります。
その後、2日目以降は「Non-Visual Interaction in XR」「Accessible Tangible Games」「AI as enabler for XR Accessibility」「Lower Vision Interaction in XR」などで、私はTangible gameのグループにずっと参加していました。
利用ツールは前述のMiroの他、Google Docsや開始前から始められたDiscordなどで、情報共有とディスカッションが延々と続きます。分野的にもコミュニティ的にもアウェーなのでかなり苦労しましたが、色々と勉強になりました。
Demoセッション
何名かが自分のシステムを持ってきて体験してもらうDemoもありました。私は本来AR/VRな人ではないのですが、デバイスとして興味を持ってもらえるかと思いSC-10を無線で動かす「片手点図ディスプレイ」を持参して体験してもらいました。
Oculusを被って赤ちゃんを抱っこするシミュレータというかゲームなどもあり、あやしているうちに床に落としてしまう事故が頻発していました…
Excursion
水曜日の午後にはエクスカーションがあり、希望者はバスでTrierに出向いて、短いガイドツアーに参加しました。何名かはTrierには興味がなかったり自分の仕事を優先させたりしてDagstuhlに残りましたが、その後合流してワイナリーの「Weingut-Weinstube-Restaurant von Nell 」に全員で移動し、工場の見学と食事、そしてワインを楽しみました。
Geocaching
メンバーの中にGeocaching を愛する方が数名いらして、食後の散歩・ハイク中に2回ほど見つけていました。ネタバレになるので詳しくは書けませんが、なかなか凝った仕組みのものが隠されていて、一同楽しんでいました。
Ghost hunt
宝探しと言えば会場内でもQRコードを使ったGhost Huntingが企画されていて、80個以上のGhostを求めてあちこち探し回る参加者の方もいらっしゃいました。最後は壁の案内モニターの角に現れるQRコードGhostを捕まえるため、皆で付き合って我慢強く待つ姿が見られました…
というわけで本当に書ききれない、充実した5日間を過ごしました。帰国してからもDiscordでの議論がじわじわ進んでいます。