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視覚障害に関するレポート

ドイツの視覚障害者に関するトピックスのうち,SZSに関わらない部分を適宜記録.

2005.8.24大学統計情報追加

統計情報

まずは一般的な統計情報.日本と比較してみる.ドイツの統計情報は,Federal Statistic Officeにまとまっている.英語版ページもあるので目的の情報が探しやすい.

大学

上記統計情報サイトの該当ページを見ると,2005年1月現在,ドイツ全土の大学数は100校(国立・私立の別は不明だが,Christoff君によると「私立は多くても2-3割じゃないかな.自信はないけど.僕のfeelingではそんな感じ」とのこと.)となっている.専門大学等を総合すると365校.在籍学生数は大学のみで約140万人.専門大学等を含めると約200万人.学科別では法・経済・社会科学が一番多く65万人弱.次いで文学部系が45万人弱.工学部は30万人ちょっと.また,男女別だと女性が95万人.外国人は25万人.男女比はだいたい半分だと言える.

2005年5月追記:大学の分類については明確な定義は難しい.上記の統計情報も,ドイツの実情などを読むと微妙に違うことが分かる.勿論年度によっても異なるだろうが,分類基準によって数が変化することを意識する必要がありそうだ.その後色々検索しているうちに,ドイツの大学リストを見つけた.これをExcelにコピーして,オートフィルタでPrivat && Universitaetをフィルタリングしてみると,私立(privat)は10校,教会立(kirchlich)は17校,公立(staatlich)89校となった.このリストは全部で322校で,ソースの作成時期も不明だし,しかもUniversitaetの総数は上述のように116校なので定義の仕方が異なると考えられるが,私立大学が日本と比べて極端に少ない(というか日本が多い)ことはよく分かる.

2005年8月25日追記:WebサイトHochschulekompassでは,大学情報の絞込み検索ができる.(Hochschulesuhenのリンク) このサイトによると,2005年8月現在,国立大学(staatlich)が88校,国公認の教会立大学が16校,国公認の私立大学が15校の合計119校となっている.その他の学校としては,芸術と音楽学校が57校(うち教会立10校,私立2校),Fachhochschuleが159校(うち教会立18校,私立39校)である.ドイツも日本同様,大学の統廃合が盛んなのか?もしれない.

一方,日本の統計を文部科学省の統計ページから落としてみると(少し古いが英語版ページもある),大学数は709校(国立87,公立80,私立542,公立法人立1),短大508校(国立12,公立45,私立451),高専63校の合計1280校である.また,学生数の概略は大学250万人,短大22万人,高専5万5千人となっており,合計は280万人程度.合計に占める女性割合は大学100万人,短大20万人,高専1万人.短大は殆ど女性で高専は殆ど男性,という一般的な感覚と合致した数字である.

日本の高等教育機関の数は,全体で3.5倍,大学だけを見るとほぼ7倍.その割に学生数はそこまで差はない.日本における大学偏重傾向と,各大学が小規模であることが伺える.しかし上の話には日本における「専門学校」を含めてはいないことに留意したい.日本人って学校好き?なのかもしれない.(学生が皆本当に「勉強したい」のかどうかは疑問だが…)

視覚障害者数

高等教育機関数と学生数の傾向がつかめたところで,視覚障害者数について見てみる.日本における視覚障害者数は約30万人,そのうち半数が1級,と巷ではよく言われている.厚生労働省の統計ページから得られる情報もだいたい合致しているが,ここからは,70歳以上の高齢者が半数を占めることが分かる.すなわち「加齢及び疾病による激しい視力の低下」が多くを占めているわけだ.ドイツに関しては,全盲者(Blinde)が15.5万人,そのうち多くを79歳以上が占める,というデータがある.そしてドイツの障害者の等級は,パーセンテージで表される.100%が一番重い障害という定義だ.各種公的サービスも,このパーセンテージで分けられる.

就労について

2005年5月19日,障害者雇用に関して職業仲介をしているZAVを訪れ,障害者雇用チームであうTeam213のリーダー,Schwarzbach氏に会って話を伺うことができた.この時伺った内容を中心にドイツの障害者就労状況についてまとめてみる.

ZAVとは

ZAVとは,ニュルンベルグに本拠地を置く職業仲介機関,Bundesagentur fuer Arbeitの特別チームが集まるところである.Bundesagentur fuer Arbeitは,国の組織というわけではなく,政府,会社,労働者の3サイドからお金を集めて構成された機関で,(2005年始に組織改変されたそうだが)基本的にニュルンベルグを先頭に「各州単位のサブセンター」「更に細かいローカルな組織」の3層構造を成している.それら3層とは別に,Fachbereich(専門分野組織)が4つ設定されており,この4つをまとめたものがZAVということである.Fachbereichはそれぞれ「EU-Binnenmarkt(EU内労働市場)」「Internationaler Arbeitsmarkt(国際系)」「Kuenstlervermittlung(芸術系)」「Personal und Finanzen(経営系)」となっており,障害者雇用はこのうちInternationaler Arbeitsmarktの1チームとして組み込まれている.個人的に面白いと感じたのは,ZIHOGA,Zentrale und Internationale Management- und Fachvermittlung fuer Hotel- und Gaststaettenpersonal と呼ばれるホテル業関連の職種も同じく特別扱いされてZAV内にあり,国際系に組み込まれていることだ.

さて,このような構成のZAVにおいて,Schwartzbach氏率いるTeam213:Vermittlung Schwerbehinderter Akademiker,(専門能力のある重度障害者の仲介)は,7名のスタッフで運営されている.

IFDとBAG-UBについて

訪問前にSchwartzbach氏から頂いたプレゼンテーションファイルの中に,IFDという組織と比較した財務状況が述べられていた.プレゼンの内容的には,「IFDより安いコストで多くの仲介をしていますよ」という主張だったのだが,IFDというものがよく分からない.そこでIFDについて尋ねたところ,これは,市町村等のよりローカルな自治体を母体とするNGOで,同じく職業仲介を業務とする機関とのことだった.IFDのホームページはハンブルグのIFDにつながるが,「IFD」で検索すると,各地のIFDサイトがヒットすることからも,自治体ベースであることがよく分かる.また,他の一般的な障害者雇用の仲介機関として,BAG-UBというものがあることも教えてもらった.ZAVの彼のセクションとの違いは,専門知識を持つ障害者かそうでないかの違いがあるという.重ねて言うが,Team213はあくまで「専門知識を持つ重度障害者のための職業仲介チーム」なのである.

法定雇用率について

法定雇用率については2001年に法改正があり,「労働者20名以上の会社は重度障害者を1名以上雇わなくてはいけない.」という基準,すなわち法定雇用率5%に設定されたそうだ.また,基準を満たさない場合の罰則金の月額は以下のようになっているとのこと.

  • 年平均雇用率が3%〜の場合:105ユーロ
  • 年平均雇用率が2%〜3%の場合:180ユーロ
  • 年平均雇用率が2%以下の場合:260ユーロ

確かに多くの企業が罰則金を払うことで障害者雇用をしていないのが現状なようだが,この制度のため,およそ300.000.000ユーロがBundesagentur fuer Arbeitの重要な財源になっているとSchwarzbach氏は話していた.

ちなみに2001年以前は,法定雇用率は6%,16名に1名の割合で,罰則金は200DMであったことが,Kahlisch氏の論文に書かれている.

一方,日本に目を向けてみると,官公庁・教育委員会・特殊法人・民間企業で異なる基準があるが1.8〜2.1%.48〜56人に1人の割合である(詳しく知りたい方は「障害者雇用率制度」などで検索すると色々出てくる).更にダブルカウント制度?なんかもあったりするので,日本はドイツと比較すると,遥かに「ゆるい」と感じる.しかしこの法定雇用率について以前SZSヘッドの1人であるVollmar教授は,「IT分野では数人規模の小さな会社が多いので,重度視覚障害者が(IT分野就職に関して)法律のバックアップを得られることは少ない」,とコメントしていた.

SGB IX

障害者雇用についての,より細かい法的記述は,ドイツの社会法典第9編(SGB IX - 重障害者法)(またはこちらを参照)に詳しく書かれている.SGBとは,Sozialgesetzbuchの略であり,上述の法定雇用率の該当箇所は77章の部分である.

近年の障害者雇用の問題点と解決手法

インタビューの中で,Schwartzbach氏は,「近年の専門知識を持つ重度障害者の就職について,大きな問題はその専門分野にある」と述べていた.すなわち,大学専攻が文系分野に偏っているということを指している.理系学科なら,専門分野と企業とを結び付けやすいが,文系学科だと何ができるのか,どのような仕事が可能なのか本人も企業も分からないということらしい.そこで,この状況を打開すべく,彼のチームは,ここ数年で「分野指向」から「個人指向,Personal oriented」に方針を変更した.

具体的には,それまで企業側からも学生側からも分野情報を得てマッチングをとって紹介していた方法を,個人情報を細かく記述したデータを整理・管理して,企業に提供するという方法に転換したそうだ.

Team213の活動

Schwarzbach氏によると,この方針転換により,年間17000通の手紙を企業に発送し,160件前後の仲介を生み出しているという.この数値は,2002年のインタビュー記事に書かれた数字であるため,2001年〜2002年の実績と考えられるだろうが,毎年同様の作業を進めているようだ.これらは前述の個人指向転換の賜物だが,その手紙を見せてもらったところ,1通1通に,障害者個人の氏名を除くパーソナルプロフィール,どのような資格や経験を持ち,何が出来るのか,が細かく記入されている.言ってみれば,日本での履歴書を匿名にして各会社に発送したような感じであろうか.

そう考えると,日本とさほど変わらないような気がするが,とにかく数を打たなくてはならない個人レベルでの就職活動とは違い,企業側のリクエスト情報を保持したうえでの発送なので,成功率は遥かに高くなると考えられる.

そして,興味深いのはその文面である.相手企業によって,応募している個人が重度障害を持つかどうかを明記したりしなかったりという手法を用いているそうだ.具体的には,個人の技能や取得資格などを箇条書きにした最後に,「私は障害者雇用の担当だ」という署名を書くことで,明記はしないものの理解はしてもらい,最初のハードルである「読んでもらう」ということをクリアする戦法である.未だ障害者の技能について偏見が持たれる分野では有効な手法だと言える.

Studien-&Berufswahl

以上の話の中で,「Studien-&Berufswahl」という本についても説明された.「学業と就職の選択」という意味だ.何をどこで勉強し,就きたい職を探す場合の手がかりとなる情報をまとめた辞書のような本で,毎年Bundesagentur fuer Arbeitが発行している.写真はSZSにあるものだが,これを読むと,どのような機関に相談したらよいのか,どの大学で何が勉強できるのかが分かる仕組みだ.SZS:講演に関するレポートのEINSTIEG Abiの項目でも書いたが,学業と就職とをひとくくりにして進路として捉えている点が興味深いと感じる.

大学のサービスについて

日本での学生の就職を考えると,大学の「就職担当」の果たす役割が大きい.近年は少なくなる傾向にあると思われるが,「大学枠」も未だに存在するだろうし,大学宛に求人票も送られてくるだろう.逆にドイツでは,大学は全くと言っていいほど就職には関知していないようだ.この話をSchwartzbach氏に振ると,私立大学に関連した面白い話を聞くことができた.とある私立大学では,学生数が60人程度で,学費がかなり高いという.その代わり,就職の面倒まで見るということだ.公立大学の有料化が議論される現在,もし有料化された場合は,就職仲介という「サービス」を学生側が求めるだろうということだ.学費とサービスのバランスという観点では,私立大学の存在とその経営はreasonableだ,と彼は述べていた.

DVBS(Deutscher Verein der Blinden und Sehbehinderten in Studium und Beruf e.V.)

マーブルグにあるDVBSは「視覚障害者のための教育と仕事の協会」だ.2005年6月21日DVBSを訪れ,チーフマネージャーのリヒター氏に話を伺った.

目的と活動

DVBSの活動目的は,専門知識の取得を目指す視覚障害者への学習及び就職の情報提供である.どの大学でどのような資格が得られるとか,法律家になるためにはどういったプロセスを踏めばよいのかなど,若い視覚障害者に情報を提供する.もちろん会員には実際にそういった職業領域で働く視覚障害者も多いため,生きた情報が提供できる.

具体的な活動内容としては,年6回の雑誌発行や墨字からデジタル媒体への点訳,セミナー開催などを行なっている.資金の50%はサービスやマガジンを売る収入,30%は政府から,20%は寄付金だという.雑誌にはCD版もあり,デイジー対応,MP3,PDF,HTMLなど様々な形態に対応したデータを入れるので,その手間がかかると言っていた.

常勤スタッフはチーフ2名を含む12名.それに20〜30人ほどのボランティアスタッフが加わっているという.

会員

会員数は約1400人.16歳以上という制限付(上限はないそうだ).また,会費は年100ユーロで,学生は半額だそうだ.これには雑誌購入費も含まれる.会員の35%が学生で,50%が現役で働いているとのこと.視覚障害者の全人口に占める高齢者の割合からすると,会員構成がかなり若い現役組であることが言える.また,専門知識志向な会員しかいないため,1400人という会員数は少ないわけではなく,バランスのとれたリーズナブルな数だと説明してくれた.

SIGs

DVBSの説明文の中に,SIGsという略称が出てくるので尋ねたところ,Special Interesting Groupsの略だとのこと.これは全部で9グループあり,例えば弁護士グループ,先生グループなどその専門領域を担当するグループだそうだ.また,StudyingやRetirementといった分野に特化したグループもあるという.

バリアフリーウェブサイトプロジェクト

資金調達について伺った際,プロジェクトの資金という話が出てきた.SZSでも同様だが,このような活動団体にとってプロジェクト資金は重要な位置を占める.現在動いている具体的なプロジェクトに,Webサイトのバリアフリーチェックプロジェクトがあるようだ.これはベルリンの財団から資金を得て行なっている.2004年実績で年間約150サイトのチェックを行なったという話で,5人の晴眼者を雇い,1サイトを2人体制でチェックする.法律に準拠した項目をチェックするというのが売りだ.

BLISTAについて

BLISTAとは

簡単に言うとBLISTAとは,「視覚障害者のみを受け入れるギムナジウム」,すなわち盲学校ギムナジウムである.ドイツの初等教育課程は日本で言うところの小学校4年生,10歳までであり,この4年間を基礎学校(Grundschule)と呼ぶ.そしてそこから中等教育課程である「ギムナジウム」「実科学校(Realshule)」「基幹学校(Hauptschule)」「統合制度学校(Gesamtschule)」に分かれるのだが,基本的に大学に進学するにはギムナジウムを選択する(途中からの変更も可能).つまりBLISTAは,大学進学希望者用の盲学校であると言える.このようなギムナジウムは,ドイツにもうひとつ,Koenigs-Wusterhausenにあるが,旧東ドイツに位置するせいもあり,近年は衰退しているらしい.そういった理由もあり,本当は2校あるのだが,BLISTAが「唯一の視覚障害者用ギムナジウム」と評されるようだ.

概要など

BLISTAは,DVBSと創始者が同じであることもあり,マーブルグに位置する.丘をあがったところに配置された建物は,体育館や宿舎,いくつもの校舎から構成される.話を伺ったBLISTAの職員によると,現在在籍者数は280〜300人ということであり,学年を追うごとに学生数が増えているとのこと.これは,統合教育になんらかの壁を感じて編入してくるケースが多いということだった.また,地域の盲学校について少々話を伺ったが,日本と同じく,重複障害学生が主に入っており,純粋な視覚障害だけの障害者が少なくなっているようだ.そのような中,盲学校では十分な教育が受けられず,かといって普通校での統合教育もまだまだ進んでいないのが現状なので,BLISTAに入学する学生が多いのだという.

雑感

マーブルグをうろつくと,確かにあちこちで白杖をついた人々を見かける.DVBSやBLISTAのことは,ガイドブックには勿論載っておらず,有名なエリザベート教会のことしか書いていない.この地だけを訪れるということは少ないだろうが,もしそのような観光客がいたとすると,ドイツは視覚障害者が多いと思うに違いない.


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